録音技術論 序章

録音技術論

序章

録音エンジニアとは何か?

エジソンの蠟管型録音機から始まり、SPレコード、LPレコード、そうしてデジタル時代になってCD音楽配信と聴く形態は時代とともに変わりつつある。

記録するメディアも、ディスクからテープへ、そして現在ではほぼハードディスク(もしくはSSDなどに代表されるメモリー類)へと変わりつつある。 

録音の方式もモノラルからステレオへ、そして現在ではそれほど一般的ではないがサラウンドと多様化しつつある。 

そんな時代において録音エンジニアは何をすべきなのか?或いはいつの時代にも(たとえこの世がコンピュータに支配される時代になっても)要求されるスキルとは何なのか?. 

だいぶ高音域が聞こえなくなってきた現在、ここに記して次世代に繋がればと思う。 

 

まず最低限必要とされる能力は「いま演者はどこの部分を演奏しているのか?」ということを理解する能力。別に優れた音楽家の様に細かな解釈まで理解する必要はないが、楽譜を見たときに「いまどこの部分をやっている」と言う能力は最低限必要だ。後述するが楽譜への書き込み量は半端ない。今自分のいる場所が分からなければ、何もできないのと同様に、いまどこをやっているのかということが理解できなければ、エンジニアとして仕事するのは諦めた方が良い。 

次に必要な能力は「その楽譜に書かれている音楽と、いま演者がやっている音楽と同じものかどうかを聴き分ける能力」である。新たに書き下ろされた楽曲であれば、楽譜から頭の中で音にする必要もある。もちろん最近では作曲家がサンプル音源を渡してくれることもあるが、楽譜(サンプル音源)を貰ってから「(楽譜上)正しい音楽」を理解しなければならない。サンプル音源を吐き気がする前繰り返し聴いて覚えるもよし、楽譜を見て頭の中で鳴らしてもよし。いずれにしても収録時には「正しい音楽」が頭で鳴っている状態でないと仕事にならない。 

そして最後には「楽器配置の空間認知能力」だろう。ボーカルやソロ楽器が前にいるという状況は誰しもが分かりやすい形だと思うが、それでは後ろのオーケストラの楽器配置はどうなっているのか?その配置通りの音場になっているかということを聴き分けられる能力は重要だ。その際に「どの楽器が音が大きく、どの楽器の音が小さいのか?」ということも知識として知っておくとマイクの配置やミキシングにおいて役立ってくる。 

 

最近ではエンジニアが「ディレクション」を兼ねることも多い。私はこのテイクとあのテイクが繋がるのか?と疑問に思うことが多々あるので、実際の現場で仮編集作業まで終わらせてしまう。こうして仮編集で良いので演者にプレイバックすることで安心につながるし、何よりもスタジオ代やホール代の経費節減になる。ここら辺の経済概念まで含めて収録に臨まないと、経費捻出厳しき現代良い録音は行えないだろう。 

 

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