録音技術論その2

第1章 マイクのセッティング

私が考えるステレオ録音時の基本マイクセッティングは「ワンポイント」である。指向性をうまく駆使して収録すれば、実際には2本の特性のあったマイクがあれば驚くほどすばらしい録音が出来る。小編成なもの、大編成なものを通じて「2本のマイクでなんとかする」と考えた方が良い。

もちろんこれは極論で、演者の力量によっては観客席で良いバランスになるとは限らないので、補助マイクを立てたりすることがあるが、演者が素晴らしければ素晴らしいほど、補助マイクは必要なくなるが、録音エンジニアの力量が試される。

ワンポイントステレオ録音にはそれほど多くの種類のマイクセッティングはない。

  • A-B方式
これは2本の完全無指向性マイクをマイクカプセル間60cm前後で平行に設置し、音源に対して比較的近距離で収録することが多い。
  • XY方式.
これは単一指向性のマイクロフォンをカプセル間の距離をほぼゼロにして、マイクロフォンの持つ指向性のみで左右の音源を収録する。ただし安いマイクロフォンではそのメリットは少なく、モノラルに近い音源にしかならないことが多々ある。
  • NOS方式.
これはオランダの収録方式で、マイクカプセル間30cm、マイクロフォン角度90度と非常に単純である。
  • ORTF方式.
これはフランス国立放送式の収録方法で、マイクカプセル間17cm、マイクロフォン角度110度とかなり変則的な方式である。 以上ほぼ4つの方式に分かれるが、どの方式も一長一短で、その状況に応じて使い分けるのがベストだろう。メリットとデメリットを軽く記しておくと A-B式は音場再現性には抜群に素晴らしいものがあるが、反面会場の嫌な部分も同時に収録されてしまうので、残響豊かな会場に適している。ただ状況によっては逆相になりやすいので、マイクカプセル間の調整には神経質になることが必要である。 XY式は基本的にカプセル間の距離がゼロなので逆相になる事はほぼないが、音場再現性に乏しい。会場の残響に「嫌な」成分が入っている場合など、演者をクリアに録りたい時に向いている。 NOS式は録音角も正確にとれるし、逆相になることもほぼない。極めて安心な方式である。 ORTF方式は、演者の音もクリアに、そしてアンビエントもクリアに録れる万能なセッティングであるが、やはり残響の少ないところでは少し嫌な音に録れる傾向にある。 どの方式がベストということはなく、TPOに合わせて選択するのが重要だと思う。上記方式の中でA—B方式は有効に使用できる会場は限られて来るので、一番出番が少ないかもしれない。
 
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